教養講座を実施しました
10月23日(金)2学期中間考査最終日の放課後、中1から高二の希望者を対象として、映画『英国王のスピーチ』を題材にして英語に触れつつ、当時の歴史的背景やイギリス王室にかかわる人間ドラマ、吃音症について解説するという教養講座を開きました。以下では、生徒に解説した内容、本講座の意図、生徒の感想などをまとめてみようと思います。
ドイツのヒトラーが台頭し、二度目の大戦の足音がきこえてきた1936年、イギリスではジョージ5世が崩御し、エドワード8世が即位しました。ですが彼は、ある問題を抱えた女性と結婚するため、つまり王冠よりも愛を選んだため、1年足らずのうちに退位してしまいます。「王冠をかけた恋」でした。そして、弟が即位しました。彼こそが吃音を抱えた英国王ジョージ6世(位1936?52年)です。のちのエリザベス2世の父親で、2013年に「ロイヤルベビー」として世界的ニュースとなったジョージの高祖父(祖父の祖父)にあたります。
映画の中心はジョージ6世と言語聴覚士ライオネル・ローグの交流で、それらのシーンからだけでも吃音について断片的な知識は得られますが、今回は医学的見地から吃音に関して掘り下げました。まず、押見修造氏の『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』という、吃音症の高校生を描いた啓発的な漫画を紹介しました。吃音は、喉に鍵がかかったような状態になって発声に苦しむ症状です。これは最も重い難発型の吃音の場合で、ここから派生した連発型・伸発型の吃音もあります。他方、緊張してうまく話せない、というあがり症とは区別しなければいけません。むしろ、緊張するからどもるのではなく、どもると予測してしまうから緊張し(医学用語で予期不安といいます)、余計にどもるという悪循環こそが、吃音の問題点です。
吃音はいくつかの要因が重なることによって幼児期に発症しやすく、大体は成長するにしたがって改善されますが、ジョージ6世のようにそうでないケースもあり、成人の吃音は完治が困難となります。吃音になる要因は完全には解明されていませんが、ジョージ6世の場合、厳格な父王からのプレッシャーやカリスマ的な兄に対するコンプレックス、左利きを右利きに矯正された経験などが、8歳頃までに発症した吃音の背景になったと考えられています。 また、どもりやすい言葉には個人差があり、ジョージ6世の場合はk、gの音から始まる単語につまりやすいという特徴がありました。
吃音に対するこうした理解をもって映画を注意深く分析すれば、ジョージ6世がたびたび予期不安にさいなまれる様子や、kingとスムーズに言えなくて苦しい表情を浮かべる描写があることに気づきます。実は映画の脚本を書いたのが吃音者であり、ジョージ6世役の俳優に的確なアドバイスをした結果、絶妙な演技が可能になったのです。
本講座の意図について。 歴史的背景ばかりでなく、吃音について詳しく解説したのは、吃音に関する知識を教養として身につけさせるだけでなく、それをツールとして映画の読み解きが、ひいてはジョージ6世に対するよりリアルな理解が可能になることを実感してもらうためでした。 さらに、吃音は大学受験のための用語とは質の異なるものですから、ある点で生徒の既成の価値観を揺さぶり、視野を広げさせることにも寄与するだろうと考えました。もちろん、一生吃音についてよく知らずに生きていく人もいるでしょう。世の中は思っている以上に私たちの知らないことであふれていますが、見た目は他の人と変わらないがため、それと知られずに、ハンディキャップを抱えて煩悶したり、強い気持ちを持って生きようとあがく人もいるのだという想像力を失ってはいけない、というのが伝えたかったメッセージの一つです。このような視野の広さ、想像力の豊かさも、アクティブな教養だと考えます。
アンケートから、生徒の感想を一部引用します。吃音については「吃音者の悩みに驚いた」「吃音の治療がこんなにも大変だとは思っていなかった」「精神面での治療が大切なのだと感じた」「コミュニケーションをうまくとることができないので、吃音の人は苦労や努力を重ねてがんばっているのだと思った」「周りの人の理解が必要だと感じた」といった感想が返ってきました。 その新鮮な気づきから、視野をさらに広げてほしいと思います。他方、講義内容には一定程度満足しながらも、普段の授業とは異なる生徒参加型の内容を盛り込んでほしいという要望も見受けられました。生徒に対する発問は何回か行っていましたが、これは鋭い指摘です。内容を精査しながら、アクティブ・ラーニングの手法を取り入れる必要性を痛感しました。
これからも、幅広い教養を身につけさせ、生徒の可能性を広げることのできる講座を積極的に開いていきたいと思います。12月には「ハリー・ポッターの世界史」という講座を開く予定です。乞うご期待!
(文責:教養講座担当)
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